「脳は鍛えれば鍛えるほど老化防止につながる」金淑子さんトークイベント

金淑子さんトークイベント
『40代のアジュンマ記者が韓国の大学院に留学! 留学のあれこれと私が見た韓国』

■日時:2015年8月22日(土)

10年前に40代後半で韓国の大学院に留学した、元朝鮮日報記者で在日3世の金淑子さんによるトークショーが8月22日、チェッコリで行われました。
留学に関心のある韓国語学習者を中心に、20代から中高年まで約20人が参加し、金さんのアジュンマ留学記に熱心に耳を傾けました。

 

鍛えれば鍛えるほど脳の老化は防げる?

金さんが韓国の大学院への留学を決意したのは、40代前半。大学卒業後、朝鮮大学校の教師や朝鮮日報の新聞記者などを経て失業状態にあったとき、これからの人生を切り開いていくには、これまでやってきたことを磨くしかないと思ったそうです。在日3世という育ってきた環境もありますが、「活字中毒の父親の影響で、高校生のころから韓国の民主化に関する本や金芝河の詩をたくさん読まされていました」という金さん。新聞記者時代は韓国情勢の記事を担当していたこともあって、韓国の新聞や雑誌、ベストセラー本などを多く読んでいました。韓国の情勢には人よりもちょっと詳しいかもという自負があり、それを生かすために考えたのが韓国留学だったそうです。

ただ、最初に思いついたのは語学堂への留学。韓国に関する知識を生かすために、語学ではなく、大学院で社会学を学んではどうかと知人の韓国人に勧められたときは、年齢的に集中力や記憶力の衰えを感じていたし、とても無理だと思ったとか。たまたまNHKのドキュメンタリー番組で、自身が営む福祉施設のノウハウを中国に広めるために60歳で中国語を勉強し始めた男性がその夢を実現し、90歳になっても60代の脳を維持しているということを知り、「脳は使えば使うほど活性化されるんだ」と励まされ、留学を決心したそうです。

レポート提出と面接を経て進んだのは、ソウルにある東国大学校の大学院。そこまではトントン拍子でしたが、いざ授業が始まってみると、現実はそう甘くはなかったそうです。「1週間に1コマ3時間の講義が3コマもあって、課題の本を読んでいって議論するのですが、その本がなんと全部英語で書かれていました。しかも50~60ページもあって、毎日アップアップ。さらに、日本の大学での専攻が異なるため学部の講義も受けなければならなかったのですが、集中力と記憶力を補うためにとにかく必死にノートをとっていました。試験の準備がどうしても間に合わず、周りの20代の学生のように徹夜で臨んだこともありましたが、当日は頭が真っ白で答案に何も書けなかったことも」と苦笑する金さん。やはり20代のころとは違うのだから、コツコツと地道にやっていくしかないとひしひしと感じたそうです。

アルバイトが世界を広げる

留学するとなると費用が気になりますが、金さんの場合、住まいは1年で約600万ウウォン(当時のレートで約65万円)のオフィステル(オフィスとしても住まいとしても使える賃貸マンション)でした。学費は、外国人は半額免除される奨学金制度などを使って年間約30万ウォン(同約32万円)だったそうです。

それでも、やはり生活費を稼ぐために、韓国に住む叔父の知り合いに日本語の家庭教師をしたり、別の大学の研究所で助手の仕事をしたりしていたそうです。日々、授業についていくだけでも大変なのに、アルバイトを掛け持ちし、しかもどちらも片道1時間半もかかるところだったので、旅行に出かけたり、遊びに行ったりする余裕はとてもなかったとか。

それでも、日本語を教えていた叔父の知り合いには、いつもおいしい昼食をごちそうになり、研究所のアルバイト仲間とは自主勉強会を通じてとても親しくなり、すさまじい受験戦争や徴兵制、結婚観や性差別など、現代の韓国が抱える問題、特に20代、30代の若者の悩みを直に知ることができ、有意義だったと金さんは言います。

郷に入れば、郷に従え

40代が20代の若者と違うのは、勉強の面だけではありません。日本で40年以上も暮らし、それに慣れていた金さんにとって、日本では簡単にできることが、韓国では思うようにいかないことに苛立ちを感じることが少なくなかったそうです。その一つが朝食。留学したころ、金さんは朝はパンとコーヒーと決めていましたが、当時の韓国ではおいしいコーヒー豆やパンがなかなか手に入らず、日本に帰るたびにコーヒー豆をどっさり買って帰ったり、ソウルのおいしいパン屋さんを必死で探したりしていたそうです。

「今から思うと、その分もっと勉強に集中すればよかった、韓国の人たちと同じように朝は米飯を食べればよかったのにと思いますが、あんなに意固地になってパンにこだわったのは、やはり留学に来て自分は一人だという不安があったからだと思います」と金さん。「その国に住んでいる人の生活や考え方への愛情をもって、それを受け入れられるだけの気力、体力があれば、もっと多くのことが吸収できたと思います」と自らの反省を込めつつ、これから留学を考えている参加者のみなさんにアドバイスしてくれました。

その上で、もし年齢などの理由で留学をためらっているのなら、料理でも手芸でも音楽でも何でもいいから、その興味の幅を広げるつもりでとにかく半年くらい行ってみてはどうでしょう。日本と韓国はとてもよく似ているけれど何が違うんだろうという好奇心をもって過ごすと、いろいろと発見があってそれだけでも楽しいはずです」と締めくくりました。

金淑子さんが2年間の留学についてまとめた『アジュンマのソウル留学日記』(一粒出版)を、チェッコリで1冊1,500円(税抜き)で販売中です。数に限りがありますので、どうぞお早目に。
遠方の方には送料を加えて配送でも承ります。chekccori@gmail.com までご連絡ください。