ハードコアなワンダーランドへようこそ~作家ピョン・ヘヨン来日トークイベント

チェッコリ2周年記念ウィーク特別イベントとして、クオンから刊行されたばかりの「新しい韓国の文学シリーズ」第16弾『アオイガーデン』の著者である作家ピョン・ヘヨンさんと翻訳家きむ ふなさんとのトークイベントが7月5日に開かれました。

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『アオイガーデン』は、2005年に刊行された短編集『아오이가든(アオイガーデン)』から4編、2007年に刊行された『사육장 쪽으로(飼育場の方へ)』から4編をきむ ふなさんが選んで、収載した短編集です。前者からの4編はファンタジー性の強い怪奇小説、後者からの4編は日常生活にひそんでいる不安な兆しを現実的に描いたもので、著者のまったく異なる筆致を味わえる短編集です。

 

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きむ ふなさんが、訳者あとがきにピョンさんの印象について述べられていたので(あとがきで著者について書いたのは初めてのことだそうです)、どんな女性がいらっしゃるのか、とても楽しみにしていました。チェッコリの事務室から現れたピョンさんは、作品からは想像もできない笑顔の素敵なチャーミングな女性で、とても驚きました。トーク中もユーモアを交えてお話しされていて、「作家と作品は別物」ときむさんが強調されるのも納得がいきました。

 

イベントの冒頭、きむさんから、今までピョンさんに聞いてみたかったけれど、なかなか聞くことができなかったこととして、「2つの短編集から選んで構成しなおしたことについてどう思われているか。それぞれ、半分ずつ捨ててしまったようで申し訳なく思っている」という質問がありました。

 

これについて、「作家にとって一番好きな作品は自分の作品でもあるのだけれど、同時に一番読みたくない作品でもある。顔から火が出るような思いもする。日本の読者と最初にいいインパクトを分かち合いたかったので、いい作品を集めていただいてうれしい」とピョンさんは回答され、きむさんの安心したような表情が印象的でした。

 

表題作となっている「アオイガーデン」のタイトルは日本語を、それも爽やかなイメージを連想させますが、日本語を意識したものではなく、2003年にSARSの大規模感染が問題となった香港の高層住宅「淘大花園(アモイガーデン)」からつけられました。疫病が流行りパニック状態になる人々の様子をおぞましく表現し、感染症というどこの国でも誰にでも起こりうる恐怖を不気味に描いています。「翻訳家というのは常に自分が翻訳して紹介したい作品のリストをつくっているが、2015年にMERS感染が広がり不安に陥る韓国社会を見て、今こそこの作品を翻訳すべきタイミングだ」ときむさんは思われたそうです。

 

「アオイガーデン」をはじめ「貯水池」など、ピョンさん自身も経験したことのない世界、見たことのないものを想像して書かなければならなかったので、これらの作品を書くことはとても大変な作業だったそうです。
ピョンさんの作品や文章は韓国の文壇で、「内臓にふれるような文章」「ハードコアなワンダーランド」と評されていますが、これについて「作家の文章にネーミングがつくのはそれなりの作家であると認められている証しである」とおっしゃっていました。この18年間小説を書き続けてこられた理由は、小説家としてまだ未熟であり、迷いながら、悩みながら書くことが小説を書く魅力であるからとも。これからも自分のスタイルを貫いて、人間の本性や残酷さ、日常生活の理不尽さ恐怖を描き続けてほしいと思います。

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(翌日、K-BOOK振興会でピョンさんにインタビューをさせていただき、作品やプライベートについてお聞きしました。記事をこちら にアップしましたので、本記事と合わせてお読みください。)

K-BOOK振興会 五十嵐 真希