CHEKCCORI読書会『少年が来る』をテーマに開催しました

『少年が来る』(ハン・ガン著 井出俊作訳)を課題本として8月の読書会を開催しました。

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本書は1980年5月18日に光州で起きた5.18光州民主化運動(以下、「光州事件」といいます。)を扱った作品です。
ちょうど読書会の前日に、文在寅大統領が光州事件を再調査すると発表しました。
また、世界に光州事件を報じたドイツ人記者のユルゲン・ヒンツペーター氏を扱った映画「택시운전사(タクシー運転手)」が韓国で大ヒットしていることもあってか、第2ドイツテレビ(ZDF)がハン・ガンさんを5.18記念公園でインタビューしたという記事もありました。今月半ばに、光州を特集した番組がドイツで報道されるそうです。
このように、光州事件が既に終わった過去の事件ではなく、今も続いているのだと実感した中での読書会で、参加者みなさんが心に残るコメントを発表してくださいました。

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◎静謐でありながらも力強い文章が石牟礼道子さんを思わせた。『ちぇっく CHECK』の巻頭インタビューで「詩と小説は緊密につながっている」とハン・ガンさんは語っているが、そのとおり詩のような言葉を書きつつ、小説を構成している。
◎1編1編の叙事詩をモザイクのように集めて歴史を語っていて、理性と感性の両方を兼ね備えている。
◎会話文であっても「」(カギ括弧)は使わず、文字のフォントを変えているのは、時間の新しい流れをつくらずに、思い起こす作業を読者にしてもらうためだからだと思った。
◎youtubeで著者自身による『少年が来る』の朗読を聴いたことがあるが、静かな語り口で、小説の世界が十分に表現されていた。(https://www.youtube.com/watch?v=pwxNy8gGkiE
◎死んでしまってこの世にいない人、口を失った人に語らせるのは、小説でしかできない作業である。
◎本書ではじめて光州事件を知った人にとっては、本書はきっかけとして最良の作品である。
◎光州事件が起きる前に光州から去ったハン・ガンさんの「その場にいなかったことへの責任」「申し訳なさ」を痛切に感じ、また自分自身もあの時何をしていたのだろうかと深く考えさせられた。
◎映画「ペパーミントキャンディー」は加害者側からの視点だったが、本書はその場にいない人、残された人、それぞれの視点で書かれていることが素晴らしいと思った。
◎暴力のシーン(特に女性に対するもの)が生々しく映像として浮かび上がってきて、ただただ怖いと思った。
◎20年後、30年後でも読める作品である。
◎59頁の「あの世で会おうなんて言葉は意味のないことだったんだよ」、140頁の「良心。そうです、良心。この世で最も恐るべきものがそれです。」などが、とても胸に迫ってきた。
◎点としてのアプローチから始まる構成がうまく、単なる「ソファ」でも「人工皮革」と表現するあたりが、純粋に小説として素晴らしい作品だと思った。
◎原書を読んだがとても難しくてじっくり読まなければならなかったので、余計に言葉が胸に響いてつらかった。特に、第六章は、原書では母親の言葉は方言で書かれており、より悲しみが迫ってきた。
◎『菜食主義者』にも『少年が来る』にもベトナム戦争帰りの人物が登場してくることに、興味を持った。
◎第一章の「君」について、「君」と語りかけているのは誰なのだろうか。
(みなさんは、「君」と語りかけている人は誰だと思われますか?)

 

このように内容から小説の技法まで様々に語ってくださり、私も気づかされることが多くありました。また、『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(チェ・ギュソク著 クォン・ヨンソク監修 加藤直樹訳 ころから)や『ソウルの風景―記憶と変貌』(四方田犬彦著 岩波新書)など、光州事件を理解するための書籍も紹介されました。

本書が光州事件を扱ったものだという予備知識が全くないまま読み始めた参加者も何人かいて、「1回読んだだけでは人間関係が全く分からず、読みにくかった」という声も聞かれました。
しかし、本書は亡くなった少年、その家族、過去の活動で受けた暴力にいまなお悩まされ続ける人々など、章ごとに様々な立場の人物が描かれています。光州事件を扱っていますが、現在も世界中で続く謂われのない暴力の被害者すべてに通じる小説だと思います。オムニバス形式になっていますので、第1章から順に読むという読み方だけではなく、途中の章だけを読んでもいいですし、いろいろな読み方で何年経っても読み続けていきたい作品です。

今年の「文学で旅する韓国」ツアーの目的地は光州です。旅程に入っている国立5.18民主墓地には資料館もあります。昨年この資料館を訪れましたが、展示されている遺品や写真などを見ると、本書に出てくる棺や太極旗はどんな状態だったのか、武器を手にしなければならなかった一般市民の様子はどんなものだったのか、本書の世界が真に迫ってきました。参加される方は、ぜひ帰ってきてからもう一度本書を読んでいただきたいなと思います。

⇒ 「文学で旅する韓国-光州・麗水編」の詳細・申し込みはココから

 

次回の読書会は9月19日(火)19時からで、課題本は『アオイガーデン』(ピョン・ヘヨン著 きむ ふな訳 クオン)です。韓国だけに通じるものではなく国を問わずに、人間の営みの不確定さ、不条理さを語りたかったというピョン・ヘヨンさん渾身の作品です。

⇒ 9月の読書会の申し込みはココから
(CEHKCCORI読書会モデレーター 五十嵐真希)