9月のCHEKCCORI読書会レポート~長編小説も読みたくなる筆力

9月のCHEKCCORI読書会を開催しました。
課題本はピョン・ヘヨンさんの作品集『アオイガーデン』です。翻訳家のきむ ふなさんもお越しくださいました。参加者からの感想や質問について快く応じていただき、充実した読書会となりました。

9784904855683

参加者から、「生死をダイレクトに表現していて、土着的で、こういう作家が韓国にいるんだと思った」、「他の人たちが目を向けていないところに視点を合わせて積極的に描き出している」、「とても美しい表紙からは想像できない不安さがあふれていて気に入った。『新しい韓国の文学』シリーズで一番好きな作品。この作家の作品をもっと読んでみたいと思った」、「小さな傷でも大きな溝となる恐怖を感じる」、「登場人物の性別がはっきりしないこと、『男』、『女』といった表現に距離感がある」、「ジョゼ・サラマーゴの『白い闇』やカミュの『ペスト』を思わせる」などの感想がありました。最も印象に残っているのは、「日本人が当然あると思っている『安心、安全、清潔』が、実は当たり前ではないと思わせる作品群である」という感想です。最近では「抗菌」や「消臭」をアピールする製品が多く販売されていますが、様々な悪臭が表現されている本作品を読むと、「抗菌」や「消臭」にこだわることの方が生き物らしさからかけ離れた異常なことのように感じられてきます。

IMG_5025

きむさんからは、私たちが何気なく聞き流すニュースをピョンさんはしっかり捉え、それを題材として作品を多く書いているということを伺いました。
例えば、「貯水池」は迷宮入りした連続殺人事件と育児放棄問題を、「アオイガーデン」はSARS(重症急性呼吸器症候群)発生のため隔離命令が出された香港の高層住宅「淘大花園(アモイガーデン)」を、「マンホール」ではチャウシェスク独裁政権崩壊後のルーマニアで、寒さから身を守るためマンホールから地下に入って下水道で生活せざるを得ない孤児たちを、「パレード」では2005年にソウルで起きたサーカスの象の脱走事件を、それぞれ題材としています。実際の事件や事象をモデルにしていますが、作品からは特定の国を連想させる言葉や表現はなく、どこの国でも起こりうるのではないかという不安や恐怖を感じさせます。

 

グロテスクな表現が多くてなかなか読み進めることができなかったという声がある一方、これだけの筆力、集中力を持っているピョンさんの長編小説をぜひ読んでみたいという声も多くありました。長編小説も邦訳されることを期待しています。

 

次回は10月24日(火)19時からで、課題本は『土地』第3巻です。
第3巻ではコレラの流行や凶作が平沙里の村を襲い、物語が暗転していきます。韓流ドラマの原点とも言われる『土地』。壮大な物語の成り行きをみなさんと語っていきたいと思います。

IMG_4948

http://www.chekccori.tokyo/my-calendar?mc_id=353

 

(読書会モデレーター 五十嵐真希)