トルストイの『戦争と平和』を彷彿させる大河小説『土地』ー10月のCHEKCCORI読書会レポート

『土地』第3巻を課題本に、10月のチェッコリ読書会を開催しました。
第3巻の翻訳を担当された吉川凪さんと、編集を担当されている藤井久子さんもお越しくださいました。

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(写真:参加者が作成された詳細な人物相関図を見ながら談笑中)

 

第3巻は飢饉やコレラなどが平沙里の村を襲い、多くの登場人物が命を落とします。
そこで、どの人物が死んでしまって残念だったか、どうしてこの登場人物を死なせてしまったのか、そう思った登場人物は誰か、参加者に聴いてみました。
ネタバレになってしまいますので、結果を細かくここに記すことはできませんが、今後のストーリー展開上しょうがない死だった、この登場人物があっけなく死んでしまって驚いた、死ぬ際に何か言い残せばよかったものを一言もなかったのはあんまりだ、など様々な意見が出ました。

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第3巻も第1巻、第2巻と同じく、著者は歴史の波に飲み込まれていく朝鮮半島について登場人物に議論をさせています。特に第3巻は、李東晋(イドンジン)というフィクションの人物に、李範允(イボムユン)や李範晋(イボムジン)、李昭応(イソウン)など実在の人物を絡め、両班の視点、儒者の視点、農民の視点と様々な立場の視点から朝鮮半島の情勢を細かく語っています。
朴景利さんが近現代史について詳しく研究をした上で、この作品を書き上げたことを垣間見ることができ、これについて、「ストーリーテラーとしてだけでなく、思想としても骨のある著者に感服する」、「トルストイの『戦争と平和』を彷彿させる」、「著者が遠くから時代の流れを眺めている感じがよく出ている」という意見がありました。また、藤井さんから「『土地』は、東学党に対する見方について歴史家にも影響を与えた作品である」というお話がありました。

 

著者はこうした歴史的描写に力量を発揮するだけでなく、村の人々の会話や暮らしぶり、風景の描写にも素晴らしい力を発揮しています。参加者から、「口下手の自分からしたら、女たちの会話のシーンは驚きを禁じ得なかった」という意見がありましたが、村の女たちの会話(喧嘩)のシーンのやかましさが生き生きと描かれていて、そういう考え方もあるのかと思わず笑いがこぼれます。私自身は風景描写も心に残っていて、その1つとして「酒に酔った人の視界のようにぼんやりと白っぽく輝く空」(25頁)を挙げたところ、「きっと朴景利さんがマッコリを飲んだ翌日にそういう経験をしたんでしょう」と言う参加者もいらっしゃいました。

 

時代の流れとともに崔参判家の没落も加速化していきます。第4巻で第1部は終わり、崔参判家の人々は平沙里の村を離れます。
今後、西姫がどのように成長し、時代の流れにどう抗っていくのか興味は尽きません。第4巻と第5巻は11月末に刊行予定です。

 

次回は11月21日(火)19時から。課題本は、晶文社による韓国の若い作家を紹介するシリーズ<韓国文学のオクリモノ>第1段、『ギリシャ語の時間』(ハン・ガン著 斎藤真理子訳)です。
傷を負った者に対するハン・ガンさんのやさしい眼差しと、言葉に対する真摯な態度が斎藤真理子さんによる美しい日本語で再現され、ずっと手元に置いておきたくなる作品です。ハン・ガンさんらしい静謐な時間をぜひ多くの方と分かち合いたいと思います。

 

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(CEHKCCORI読書会モデレーター 五十嵐真希)