12月のCHEKCCORI読書会レポート『殺人者の記憶法』を読んで

12月のチェッコリ読書会を開催しました。課題図書は『殺人者の記憶法』キム・ヨンハ著 吉川凪訳 クオン)です。

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翻訳者の吉川凪さんとフリーライターのハン・ジョンリムさん参加され、映画版『殺人者の記憶法』の配給会社ファインフィルムズの山本尚美さん、東京新聞記者の砂上麻子さんもオブザーバーとして同席されました。ハンさんは昨年、韓国芸能雑誌topclassに「日本に韓国文学を広める韓流伝道師 日本における『菜食主義者』の人気をリードするクオンの代表金承福氏」という記事を書いていらっしゃいます。

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本書の帯に「長編ミステリー小説」と紹介されていますが、一読してミステリーなのかどうか分からず、ミステリーと思われたかどうか皆さんに伺ってみました。
まず吉川さんから、「ミステリーと言うと最後に種明かしがあるものだけれども、本書はそういう作品ではないのでミステリーとは思わずに翻訳した」とのことでした。
参加者の意見も、「ミステリーだと思って読み始めたけれども、全然違った」「主人公がアルツハイマーを患っていると知っていたので、信頼できない語り手の話として読み始めた」というものがほとんどでした。

ハンさんから、韓国ではミステリー作品とは捉えられていないこと、キム・ヨンハさんはトーク番組も持っていて、韓国で今一番人気を集めている作家であること、多くの作品があり、「キム・ヨンハ」が一つのジャンルになっていること、などを語ってくださいました。
本書の進行管理を務めたクオンの伊藤明恵さんより、いろいろな読み方ができる本書はミステリーとしても読めると思い、そのように紹介したとのお話がありました。

「過去を象徴するキム・ビョンスと現代を現しているパク・ジュテの闘いの話と捉えた」や「韓国にはドラマでも記憶喪失を扱ったものが多く、小説にも『歳月』(鄭智我著 橋本智保訳)など記憶が素材となっているものがあり、韓国社会で記憶がどんな風に扱われているのか気になった」「記憶について言えば、韓国では歴史上忘れたいものが多くあるのではないか」「家族との葛藤や時間が過ぎていくことの怖さを感じた」などの内容に対する感想や、「引き出しの多い作家」「展開で読ませる作家」など作家に対する感想などをいろいろと聞くことができました。

本書はソル・ギョング主演で映画化され、日本では2018年1月27日に公開予定です。既に映画をご覧になった参加者もいらっしゃいましたので、ネタバレにならない程度に感想をお聞きしたところ、全員一致で「小説とはまったく違った」という感想でした。それが良かったという人もいれば逆の感想の方もいましたが、吉川さんもおっしゃっていた通り全く別のものとして評価されるものなのだと思います。また、小説のキム・ビョンスはどこかユーモラスなので、ソル・ギョングのイメージとは合わないという感想もありました。書籍もそうですが映画も人によって感想がさまざまで面白いなと思いました。

⇒ 映画『殺人者の記憶法』公式ホームページ

 

読書会の終了後に、ハンさんから「読書会の参加者が、記憶というものを韓国の歴史や社会と結びつけて考えているところや、作家のことまで語っているところが新鮮で面白かった」との感想をいただきました。

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「新しい韓国の文学」シリーズの表紙はいつも作品のなかからモチーフが取られていますが、今回は砂時計。主人公の残り少ない時間の表れでもあり、作品世界をいろいろな形で表すものとして、デザインされたそうです。

年末の慌ただしさで大事なことを失念してしまったり、宴会のお酒で記憶をなくしてしまったりする方もいらっしゃるかもしれませんが、どうぞご自愛の上、よいお年をお迎えください。

 

次回は1月23日(火)19時から、課題本は『満ち潮の時間』です。文化体育観光部の長官(大臣)を務めている詩人ト・ジョンファンさんの主要作品を集めた詩集です。亡くなった妻への愛、教え子への愛など、さまざまな愛や悲しみを読み取ることができます。
チェッコリ読書会で初めて詩集を取り上げますので、この機会に、皆さんが好きな韓国の詩人や詩集についてもご紹介いただければと思います。

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(チェッコリ読書会モデレーター 五十嵐真希)