「文学で旅する韓国―統営編」レポート

2016年のクオンのツアーは、「文学で旅する韓国―統営編」と題して慶尚南道の統営市を訪ねました。
参加者は東京からはもちろん、仙台、大阪からの計26人。韓国観光公社と統営市に支援をいただき、新鮮な海の幸と美しい港町の景色を存分に味わい、多くの作家や芸術家を生み出した文化的土壌にもたっぷり触れ、果てには「ここに住みたい!」という人が出てくるほど、統営の魅力を満喫した4日間でした。

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<ツアーの前から観光情報をたっぷり収集>

 

11月20日からのツアーに先立ち、クオンが運営する韓国書籍専門のブックカフェ「チェッコリ」で「東洋のナポリ“統営”の魅力を語る」をテーマにイベントを開催。私たちより一足早く8月に統営を旅行してきたチェッコリの常連さん、滝沢織衣さんと渡邊美奈子さんに町の魅力をたっぷり語っていただきました。「おいしい魚が食べられて、芸術の香りにあふれた町だった」とお二人。イベント参加者の中には、クオンのツアーには参加できないけれど、ぜひ機会があれば行ってみたいという方も少なくなく、「どの空港から入国するのが便利か」(答え:釜山)「空港からの移動手段と所要時間は?」(答え:市外バスで約1時間20分)など具体的な質問が次々と飛び交っていました。

 

<朝から晩まで新鮮な魚料理に舌鼓>

 

統営の魅力は多々ありますが、何といっても一番はやはり「食」でしょう。毎日、毎食、新鮮で珍しい魚料理に、舌も脳も驚きの連続でした。初日の夜、統営市の職員の方々が歓迎の宴の場所として用意してくれたのは、カキ専門店「통영명가(統営名家)」でした。カキのジョンに、カキの和え物、カキの酢豚風など、カキづくしのメニューに加え、太刀魚の稚魚など珍しいおかずも並ぶ超贅沢な食卓で、みんな大興奮。初日から期待がふくらみます。

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朝食は、宿泊したコブクソンホテルで供されることになっていましたが、知り合いに聞いて市場のおいしい食堂をしっかりリサーチしていたHANAの裵正烈社長が、「隊長」として連日、おいしい朝食ツアーを企画してくれました。自由参加でしたが、ツアー参加者のほとんどが統営ならではの味を求めて市場に向かいました。

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(ホテルの目の前には統営大橋が。夜のライトアップが有名です)

 

二日目の朝はフグ汁を目指して、地元の伝統市場、西湖市場へ。海産物を中心としたこの市場の中ほどにあったのが、フグ汁専門の「만성복집」

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おすすめの「ふぐのスープ=졸복국(지리)」を頼むと、まずはパンチャンがずらりと登場し、海鮮がたくさん使われているパンチャンは珍しいものばかり。特に印象に残ったものは、チャンジャがとても濃厚で、ワタがそのまま入っていて、お酒がそれほど強くない私でさえソジュに合うだろうな、と思えるひと品でした。
そしてメインのスープ(국)は、中に入っているふぐは写真にあるように、スッカラに乗ってしまうほどの小さなもので「彼岸ふぐ」という種類だとのこと。これが4、5匹入っていて、少し骨も気になりますが、丸ごといただいてしまいます。
セリがたっぷりと入ったスープは韓国の국らしく、さっぱりとした薄味なので、パンチャンと一緒に出てきたヤンニョムなどを加えていただきます。12,000Wですから、韓国の朝のメニューにしては少々お値段が張りますが、お店には次々にお客さんが訪れていました。

 

三日目の朝は、同じく西湖市場の中のシレギスープの店「가마솥 시락국」へ。
まるで映画のワンシーンに登場するようなこのお店の外観だけ見てもテンションUPでした。

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「시락국」。シレギは大根の葉ですが、この地方の特徴で「시락=シラック」と呼ぶそうです。
シンプルなスープですが、すでに中にはご飯も入っていて、そこにキムチやノリ、そしてネギのヤンニョムでしょうか、お好みで足していただきます。さっぱりとしているけれども大根の葉がトロリと煮込まれ、何とも言えない味わい。
酔い覚まし、目覚ましの一杯としては最高です。しかもこれ1杯でたったの4,000W。大満足の一杯となりました。

 

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昼食で特に感動したのは、ホヤピビンパでした。ソウルでも食べられるそうなのですが、私(清水)は初めて。小さく刻んだ生のホヤがたっぷりのっていて、ホヤだけを食べるとしょっぱいのですが、混ぜるとほどよい塩加減に。そして、鮮度がいいからでしょう。生臭さもなくて、ホヤが苦手な人もおいしい、おいしいと言って食べていました。

 

 

<瀬戸内海に似た美しい港町>

 

570もの島々を抱える港町、統営。その眺望のすばらしさを私たちはさまざまな形で味わいました。ボランティアガイドの女性の案内でまず向かったのはトンピラン壁画村。韓国で「タルトンネ」と呼ばれるいわゆる貧民街で、一度は市の再開発計画によって壁と家々が撤去されそうになりましたが、有志によって壊す前に壁に絵を描くことが提案され、それが多くの人の目にとまって観光資源としてそのまま生かされることになったという場所です。2年に一度、公募で壁画の絵が描き直されるそうで、何度行っても違う雰囲気が楽しめそうです。ちなみにトンピランというのは「東の崖」という意味です。

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ドラマ『パダムパダム』や『優しい男』のロケ地としても知られていて、すこし急な坂道を上っていくと統営の港とその向こうに広がる海が見渡せます。何となく瀬戸内海の尾道に似ているなと思いました。

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次に向かったのは、三道水軍統制営です。1604年から約300年にわたり、慶尚道、全羅道、忠清道の水軍を指揮していた本営で、壬申倭乱(文禄・慶長の役)のとき、李舜臣の陣営が設けられた所です。その中心となるのが洗兵館と呼ばれる客舎。壁がなくオープンな広い空間なのですが、何だかとても心が落ち着き、私たちはそこに座ってガイドさんの話に静かに耳を傾けました。「当時は地方ごとの人の往来はほとんどなく、文化や風習もその地方に限定されたものだったが、この三道水軍統制営に集めてこられた各地方の役人たちが家族と共にさまざまな生活文化も持ち込んだ。それによって統営で豊かな文化が育まれ、音楽家の尹伊桑や作家の朴景利らすぐれた文化人を多く輩出することになった」とのこと。なるほどと思わず納得の解説に、みなさん大きくうなずいていました。

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その後、路地を通り抜けながら、ソピラン(西の崖)へ。途中、朴景利の生家があったり、朴景利の文章が書かれた壁があったりして、ぶらぶらと散歩するのにぴったりのとてもすてきなルート。ソピランから見下ろす統営の町と海も絶景でした。

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統営が誇る閑麗水道眺望ケーブルカーからの眺めも最高でした。といっても、ケーブルカーで弥勒山(標高461メートル)を登るときは曇り空で景色が今一つよく見えなかったのですが、ケーブルカーを降り、頂上を目指して20分ほど階段を歩いて登ると、まるで私たちを待っていてくれたかのように雲の間から日が差し込み、荘厳な景色をカメラに収めることができました。息が上がりそうになり、足をがくがくさせながら登ったかいがありました。

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<小さな本屋とゲストハウス>

 

「남해의봄날」(南海の春の日)という一人出版社が運営する小さな本屋とゲストハウスにも立ち寄りました。5、6人も入ればいっぱいになってしまう本当に小さな本屋さんでしたが、本のセレクトがすばらしく、買いたい本がたくさんあって困りました。남해의봄날のチョン・ウニョン代表は元々ソウルの方ですが、なぜ統営に移り住んだのか、なぜ統営で出版社と本屋を始めたのかといったお話もじっくり聞かせてもらいました。このあたりが出版社クオンのツアーならではの楽しみの一つですね。

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ゲストハウスの部屋には、統営の伝統工芸であるヌビ(韓国のキルト)の布団や螺鈿の鏡、囲碁盤などがしつらえてあり、素朴ながらもとてもすてきな空間でした。上階には屋根裏部屋もあり、落ち着いてぐっすりと眠れそう。次回はぜひ泊まってみたいと思います。

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<故朴景利氏の墓所参拝と市長表敬>

 

今回のツアーの大きな目的の一つでもあった『土地』の著者、故朴景利氏の墓所も参拝しました。刊行したばかりの『土地』日本語版の1、2巻を墓前に供え、全20巻完訳プロジェクトのスタートを報告。30年前に著者にインタビューしたことのある文芸評論家の川村湊さんが、著者とのエピソードを涙ながらに語ってくれました。参拝の前には、墓所のふもとにある朴景利記念館も見学しました。

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統営市の金東鎮市長も表敬訪問しました。金市長は、市長室にツアー参加者全員を招き入れ、この日のために準備したという日本語の名刺を配りながら歓迎。「文学」をテーマに韓国を旅しようというツアーの趣旨に強く賛同してくれました。

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本当にあっという間でしたが、多くの出会いと発見があり、とても充実した4日間でした。
今年の「文学で旅する韓国」は「光州編」で、『少年が来る』(ハン・ガン著)の世界をたどる旅になる予定です。どうぞお楽しみに!

 

文・写真 清水知佐子、佐々木静代