【イベントレポ】『WORKSIGHT』 21号刊行記念イベント 詩人チン・ウニョンに聞く「セウォル号事件の悲しみは詩で癒せるか?」

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セウォル号事件の犠牲者の声を表象した詩「あの日以後」を収めた詩集が韓国でベストセラーになり、セウォル号の惨事に関する評論エッセイ『目の眩んだ者たちの国家』(新泉社)にも参加する、韓国詩壇の第一人者として活躍されているチン・ウニョンさん。
「詩のことば」は何を語りうるのか、「詩の力」は社会を変えることができるのか、モデレーターに翻訳家の吉川凪さん、WORKSIGHT[ワークサイト]のシニアエディター宮田文久さんを迎えて、イベントが開かれました。

詩人としてのチン・ウニョン

2004年から詩を書き始め、初の詩集を出して今年で20年になるウニョンさん。彼女が書いてきたこれまでの詩には、自分の家族の詩や自分の心の傷について書いた作品から、世界を作り上げる神の気持ちに書いた詩集、もっとたくさんの人などに興味を持つようになり、自分と違う人の声を聞きとる事を表現した詩集など実に様々。その中は少し政治やその時の情勢を表している物が多い。例えば、作品「教室にて」では、漢陽大学の付属高校に通っていたある日「教室から窓の外を見ると、漢陽大学の大学生たちがデモをやってる姿が見え、その時の風景っていうのがとても印象的で、その場面を思い出しながら綴った」ものだそうです。

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(イベント終了時に記念撮影に応じてくださった読者のみなさんと)

世界中で翻訳された「あの日以後」

ウニョンさんは、小学校時代に溺れてこの世を去った同じクラスの友達のことを綴った「事実」や、中学生になるやいなや希少な病で世を去った母方のいとこのことを詠んだ「春に死んだ子供」といった詩を書いています。「“あの日以後”のイェウンは、幼い頃の友人やいとこのように身近な子どもとして感じられるので、惨事犠牲者と遺族の苦痛をいつまでも記憶することになるようだ」とほかのインタビューで話しています。
「あの日以後」の制作にあたり、「この仕事を一度断っていた」ということが視聴者からの質問で明らかになりました。というのも「自分自身に子供がおらず、またいたとしても、この事件のような経験をした犠牲者の方の気持ちを詩で表すことはできない」と思っていたそうです。しかし「自分の中にある倫理やルールというものにとらわれてはいけないと感じさせてくれる状況(事故)だったから書けたのでしょう」と語っていました。

そして「詩人というのは沈黙の中で他者の声に耳を傾ける人だと思います」という彼女。その姿勢は、詩を書く時に起きる「自分を表現したいという欲求」を捨て「犠牲になった子供の声を明瞭に伝える事」であり、それが伝わるからこそ、今もなおどこかで起きている惨事の犠牲者やそれをニュースなどで見た人たちの悲しみに共感し、慰めになっている人たちが多いのだと感じました。

文学カウンセリングについて

ウニョンさんの勤務している韓国相談大学院大学は、韓国社会に必要な有能なカウンセラー(相談員)、すなわち専門的で創意的で成熟したカウンセラーを養成するために開校した大学。「第2の人生を歩みたい、新しい仕事を中年以降やってみたいという観点から40代~60代の学生がたくさんいる」といいます。

「様々なテキスト、例えば、新聞記事、読みやすい文章、名言や小説など、様々な文学作品を読みながらその感じを言葉にしたり、絵で描いたり、文章で書きながら自分を振り返ることができます。現代は自分に対して深くまたは慎重に考える時間を持てないようです。 しかし、少しでも文学的な接点ができれば、新しい自分を受け入れて新しい認識ができると確信します」と学校紹介のインタビューに答えていました。
「自分という人間は食べたもので体が出来あがるように、自分が見て学んだ物の相対として考える事も出来るかと思います」とこの文学カウンセリングを通して、少しでも自分を振り返ることができると語っています。

またイベント中には、ウニョンさんの詩が韓国語の原文と邦訳された文とで朗読され、作者本人の朗読が聞ける贅沢な時間でした。なぜウニョンさんの詩が国内外から大きな反響を呼んだのか、その事が実感できる濃密な時間だったと思います。ウニョンさんが行っている文学カウンセリングもまた、多くの人にこういうものがあるという事を知って、選択肢の幅が広がったらいいなと思ったイベントでした。

(レポート作成:古澤恵菜)