チェッコリイベント動員数更新! 戸田郁子さんイベントリポート

朝日新聞の日曜版「GLOBE」で「ソウルの書店から」と、韓国のベストセラーランキングとともに、戸田さんおすすめの本を紹介してくだっている戸田郁子さん。

最新訳書『世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョ・フンヒョン)の考え方』を出版されたのをご縁に、チェッコリでのトークイベントを企画したところ、申し込みが殺到し、場所を広い会場に変更して開催しました。

とうとう、チェッコリのイベント動員数の最多人数を更新です。

さて、今回もイベントのお手伝いに来てくれていた大学生、李泰炅(イ・テギョン)さんにリポートをお願いしました。

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この日、戸田郁子さんの留学時代から最近の取り組みまで、韓国での本づくりのアレコレをたっぷりお話してくださいました。

戸田さんの文筆活動のはじまりは、留学中にレポート用紙に手書きで書いては友人たちに送っていた「ウッチャ通信」。それらを基にして出版された『ふだん着のソウル案内』のヒットをきっかけに、戸田さんは出版に関わりはじめます。

ソウルオリンピックが近づいていたこともあり、韓国での生活者目線の情報を届けるフリーライターとして大忙しだった戸田さん。「自分に実力があるからこんなに仕事を任せてもらえるんだ」と、いい気になっていたと語ります。ところが、オリンピックが終わるとぱったりと仕事がなくなってしまったんだとか。そこで戸田さんはなんと…エッセイ講座を通信受講し始めたのです!すでにプロとして文章でお金をもらっていたにもかかわらず、必要とあらば基礎から勉強をし直す素直さ…見習いたいものですね。

 

次にお話してくださったのは、日本人として韓国で働く上で大変苦労された時のこと。就労ビザがもらえず、当時の観光ビザ期限の15日ごとに日本に帰国しては、また観光ビザを申請して韓国に渡り、出版社のお仕事を手伝う日々。やがて、夫のユ・ウンギュさんと出会い結婚ビザを手にしますが、それでも大手を振って働くことはできなかったのだとか。「役人に『結婚ビザはお家でごはんを作るためだけのビザで、働く権利はあなたにはない』と言われてしまって。韓国での仕事を制限されて、理不尽だと思いながらもずっと書いてきました。」今でこそ、世界レベルでワーキングホリデーが流行していて、韓国にも毎年大勢の日本人が渡っていますが、ほんの10〜20年遡るだけでも、現在とはまったく違う困難な状況だったということがよくわかります。

 

その後、自分で出版社を立ち上げたキッカケについてのお話が。戸田さんは、写真家の夫・ユンギュさんと共に中国朝鮮族について調べていました。その成果を、資料集として出版できないかと考えますが、どの出版社からも企画を拒否されてしまいます。「どの会社も出版してくれないなら、自分で出版してしまえ!」と、図書出版土香(トヒャン)を設立。

…どこかの韓国人社長と似たような理由ですね(笑)

とあるミュージシャンも「自分が聴きたいと思う曲がないから、自分で作っている。」とインタビューで言っていましたし、起業する人の根底には、やはり「自分で自分の希望を叶える手段を作りだす」というマインドがあるのだろうなと感じました。

 

最新刊の翻訳本の『世界最強の囲碁棋士、曺薫鉉(チョ・フンヒョン)の考え方』話では、原作の魅力を語ってくださいました。

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「わたしは囲碁なんてちっとも分からないんですけど、囲碁棋士の人たちが碁盤の前で何を考えているのか、その頭の中を覗いてみたかったんです。この人は、韓国では顔を見れば誰もが知ってるくらい有名人なんですよね。文章も、他の韓国の作家さんは一文がすごく長いのに対して、この人は短くて明確でわかりやすい。彼の考え方も、自分にはとても新鮮なものに感じられました。青年期を日本で過ごしている人なので、もしかしたら日本語の言語体系がすごく馴染んでいる人なのかもしれませんね。」

 

終盤では、我らが金社長との対談タイムが。

戸田さんは現在ソウルから仁川へとお引越しされていて、「仁川官洞ギャラリー」をオープンしました。出版社立ち上げから「場を持つ」ところまで、共通点の多い戸田さんと金社長。ギャラリーについてのお話を、と金社長からリクエストされた戸田さんですが、なんとギャラリーオープンに本人は乗り気ではなかったのだとか。

「夫が写真家ですから、撮影した写真がたまってきてどうしようと思っていたのと、そういった場をもって後輩たちと交流したかったらしいんですね。でも私は、出版業だけでも大変なのにギャラリーなんか開いたら掃除に手が回らない!と大反対。家出までしたんですけど(笑)、結局オープンしちゃいましたねぇ。今住んでいる自宅兼ギャラリーは、もとは日本人が建てた長屋なんです。近所にはチャイナタウンもあったりして、仁川は歴史がはっきりと残っている場所ですね。ぜひ、みなさん一度散策にいらしてください。」

 

最後の質疑応答の時間では、お客さまから「なぜ韓国では古本市場が成熟していないのですか?」と質問が。

それに対して戸田さんは、「韓国人は手垢を嫌うからでは?子どものお下がりでさえ、他人のものを着せるのは嫌がられるんですよ。読み終えられた本とかも、マンションやアパートの前に捨てられてるんですけど…私はこっそりもらってしまいます(笑) ちなみに仁川には古本屋街があって、掘り出し物もけっこうあるんですよ。」

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戸田さんイチオシの仁川ですが、今までの私の認識では、「空港があるソウルまでの中継地点」程度にしか考えていませんでした。次に個人的に韓国を訪れることがあったら、ぜひ素通りせずに仁川散策して、官洞ギャラリーにも訪れてみたいなと思いました。就労ビザ騒動や、韓国でも起きている出版不況にめげず本を作り続けていけるのは、その辛さも含めて本の完成を目指す時間が好きだから、と語る戸田さん。

穏やかな表情の下に湛えられた情熱のなせるわざに、ただただ感服しました。本へのとまらない愛に満ち溢れたお話、どうもありがとうございました!