黒田福美さんと韓国と本と。

まだ「韓流」という言葉すら存在しない、1980年代、韓国に魅了された俳優がいた。
それが黒田福美さんだ。そして今でも日韓交流の第一線で私たちをひっぱってくださっている。

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「チェッコリ一周年記念イベント」のトリに登場いただいたのは黒田福美さん。
狭い店内は過去最高の50名弱の方でいっぱい。

そこに登場された黒田さんに、思わず「うぁ~っ」という歓声と拍手が起こった。
テレビに登場するその姿が狭い店内で手の届きそうなところにいらっしゃるのだから、無理もない。

 

「チェッコリは本屋さんですからね、私と本を通じて、韓国についてお話しましょう」とこの日のテーマをまずは述べてくださるあたり、さすがだ。

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1980年代、隣国である韓国に誰も関心も持たず、偏見(差別)だけが見えてしまう状況にそれは「由由しき」ことと、自分の中の“正義感”が韓国という国への興味を一気に加速させたそうだ。そして韓国(=ソウル)に通い始めると、案の定実際に触れてみる韓国は日本で見たり、聞いたりしている姿とはまったく異なっていたことから、韓国の真の姿を知るには、一人一人の交流が一番なのだ、と実感される。

その思いを伝えるために、実際に韓国に行くことを勧めてみよう、旅することを勧めてみようと、執筆したのが『ソウルの達人』(1994年刊)。ソウルの隅々まで実際に歩いて紹介したこの本は、当時としては画期的な本といえる。

それらの続編や『ソウルマイハート』といった著作でも韓国の魅力を伝えるとともに、『となりの韓国人』では、切っても切れない関係となった韓国の人々と互いの特性を理解して共に歩もう、と語っている。

そんな黒田さんが、ぜひとも自分の手で訳したいと思う本と出会う。それが『배고프면 밥먹는다』(イ・ギュギョン著)だ。ほのぼのとしたイラストと、味わいのある文章で綴る「韓国流、日々の哲学」がいっぱいのこの本。毎晩寝る前に少しずつ読むたびに、勇気づけられたという。その中から「強いということ」と「夢見る木」という2つのお話をその場で朗読してくださった黒田さん。

「強いというのは大きいことではなく、長い間耐え抜く力を持っていること」「人間は希望があれば生きていける」というメッセージがそれぞれに込められている。
「少し前まではつい涙が出てしまってね」といいながら、やはりちょっと声を詰まらせていらっしゃる。その様子に思わず皆、もらい泣きしてしまうほど。ほかにも、イ・ギュギョンさんの著書の中から『짧은 동화 긴 생각 』『짧은 동화 큰 행복』をおすすめしてくださり、黒田さんはいつかこれらの本も翻訳してみたいと考えているそうだ。

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そして一番近著となっている『黒田福美のぐるぐる韓国~ソウル近郊6つの旅 使える韓国語フレーズで旅先でも安心!』からは、今は少々都会になり過ぎてしまったソウルを一歩飛び出して、古き良き韓国の風情が残る地方旅のおすすめをしっかりと語っていただいた。

 

韓国との出会いから30年あまり。その間、日韓関係が政治的に厳しい時期も多数乗り越えていらしたであろう黒田さんが、それでもなお韓国との交流をたゆまず続けていらっしゃる強い信念と愛情を感じる一時間だった。

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講演後は、一人一人と丁寧に言葉を交わしながらのサイン会。黒田さんの達筆さに皆さん驚きながら、大満足の表情で店を後にされていた。